無機質な動きの中にあるもの
ポートレートの撮影場所は、スタジオだけではありません。
私がよく選ぶ場所のひとつに、「エスカレーター」があります。
エスカレーターは、一定のスピードで、決まった方向へ人を運び続けます。
とても機械的で、感情の入り込む余地がなさそうな空間です。
でも、そんな無機質な動きの中に立ったとき、その人が持っている「内側のエネルギー」が、意外とくっきり見えてくることがあります。
ただ立っているだけ。
それなのに、止まった場所では出ない「動きのある美しさ」が、そこにはあるように感じます。
下アングルが引き出すもの
エスカレーターで撮るとき、私が意識しているのは「下からのアングル」です。
モデルを少し高い位置に置き、下から見上げるようにカメラを構える。
これには、ちゃんと理由があります。
下アングルで見ると、顔まわりの余計な膨らみが目立ちにくくなり、顎から首にかけてのラインがすっと伸びて見えます。
結果として、視覚的なムダが減り、立ち姿に凛とした強さがにじむように思うのです。
上から撮ったときに出やすい「かわいらしさ」や「幼さ」をあえて手放して、
一人の大人として立っているエネルギーを写したい。
そんな感覚に近いかもしれません。
空間のムダを自然に消す
エスカレーターそのものの形も、この考え方に合っています。
長く伸びる手すりやステップのラインは、自然と視線を奥へ、そしてモデルへと導いてくれます。
いわゆる遠近感が、勝手にできあがるんです。
周囲にある雑多な景色も、エスカレーターという直線的な「枠」で切り取られることで、気になりにくくなる。
空間のムダが減り、見る側の意識がモデルに集中していくように感じます。
この引き算がうまくいくと、
モデルは「そこに立っている人」から、空間を使って表現する存在へと変わっていくように見えることがあります。
動きの中でこそ見える規律
エスカレーターは止まっていません。
常に動いていて、身体はわずかに揺れます。
そんな中で、第2回で書いた「姿勢」を保ち続けるのは、思っている以上に難しいものです。
バランスを崩しそうになる瞬間。
それでも背筋を伸ばし、表情を大きく崩さずに立ち続ける。
その姿に、「動いている環境の中でも、自分を保とうとする意志」を感じることがあります。
それこそが、私が言うところの内側のエネルギーなのかもしれません。
無機質な機械の動きに身を任せながら、
自分の在り方だけは手放さない。
エスカレーターという短い時間と限られた空間の中で、
私はそんな静かな強さを写し取りたいと思っています。

